ソロモンの頭巾

COP27と原発 気候変動と戦う「アンサングヒーロー」 長辻象平

エジプトで開かれていた国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が閉幕した。

ロシアによるウクライナ侵略で生じたエネルギー危機に世界の国々が直面した中での開催だった。

地球温暖化問題は、エネルギー利用と表裏一体であるだけに、二酸化炭素を排出せず、安定供給力に優れた原子力発電への関心が高まった。

COPの会場には国際原子力機関(IAEA)と世界の原子力産業界によるパビリオンもオープンするなど原子力発電活用への広報活動が展開された。

危機告げる発表

11月6日のCOP開幕を前に、国際機関から切迫した発表が相次いだ。2021年の二酸化炭素濃度が「史上最高」になったとか、各国が確約した温室効果ガスの削減目標を達成しても今世紀末の気温は産業革命前から「2・5度上がる」というものだ。

前者は世界気象機関(WMO)、後者は国連環境計画(UNEP)。

途上国は、温暖化がもたらす「損失と被害(ロス&ダメージ)」からの救済を新たな資金援助の形で先進国に強く訴えた。

開幕2日目の首脳級会合では、国連のグテレス事務総長が「地球は引き返せない気候変動の転換点に近づいている」と、さらなる削減努力の積み上げを呼び掛けている。

グロッシ氏登場

こうした中で注目を集めたのがパビリオン「#ATOMS4CLIMATE(気候のための原子力)」だった。

世界原子力協会、欧州原子力産業協会、米原子力エネルギー協会などと並んで日本原子力産業協会も加わった組織にIAEAが合流した形でCOP4日目の9日にオープンした。

 パビリオンでの国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長。「気候変動対策で誰一人取り残さない社会のために、原子力を活用しよう」と語りかけた (日本原子力産業協会提供)
パビリオンでの国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長。「気候変動対策で誰一人取り残さない社会のために、原子力を活用しよう」と語りかけた (日本原子力産業協会提供)

そのセレモニーにIAEAのグロッシ事務局長が駆け付けた。ロシア軍の攻撃が続く中、ウクライナのザポロジエ原発の損傷状況を調べるために現地入りした人物だ。

原産協会の職員によると多くの来場者と握手を交わしていたという。

エジプトで着工

WMOや国連食糧農業機関(FAO)なども同パビリオンの協力機関となっている。

グロッシ氏はそのことについて「気候変動対策に原子力の貢献が期待されている証し」と述べた。

原子力は24時間365日可能な発電だけでなく、クリーンな水素製造、工業用熱源、地域暖房、海水淡水化―など幅広い分野で役に立つ。

風力発電や太陽光発電との共存で再生可能エネルギーの弱点である出力変動が補完され、エネルギーの脱炭素化が拡大する。

放射線の農業分野への応用からは食料の増産も期待される。

原発は途上国にも魅力的な存在だ。アフリカ大陸では、南アフリカで97万キロワットの原発2基が稼働しているだけだが、エジプトも120万キロワットの原発4基の建設計画を持っており、今年7月に1号機、11月に2号機の建設が始まっている。

パビリオンのオープンセレモニーでは、ガーナのエネルギー相が「原子力比率50%のネットゼロ社会」への夢を語った。ネットゼロは二酸化炭素の排出実質ゼロを意味する言葉。世界が2050年までの実現を志向している目標だ。ケニアも革新炉の導入に関心を持っているようだ。

途上国にSMR

世界には431基(22年1月時点)の原発があり、地球上の電力消費量の10%以上を賄っている。

建設中は62基、計画中は70基。原発は革新炉の開発へと進み、これからさらに増えていくはずだ。

革新炉は、安全性やエネルギー効率などを高めた先進的な原発の総称で、小型モジュール炉(SMR)も含まれる。

途上国に適しているのがSMRだ。電気出力は30万キロワット以下なので需要の小さな国に向いている。また、工場で製造したユニットを立地点で組み立てられるので短期間での建設が可能。段階的に石炭火力に置き換えれば、脱炭素が進む。

「影の英雄」は…

世界の人口は、この約10年で10億人増えて80億人になった。二酸化炭素の排出を促進するのは、人口と経済活動だ。その結果、地球温暖化への対応が時代の要請となっている。

植物の薪炭から化石燃料の石炭、石油へと人類が利用するエネルギー源は変遷してきた。脱炭素化を迫られる現代は、次なるエネルギーの移行期に位置しているのだろうか。

日本では原発の運転期間の延長が国策上の議論の焦点になっている。パビリオン「#ATOMS4CLIMATE」での対話セッションでのグロッシ氏の一言が印象的だ。

「気候変動との戦いでのアンサングヒーローは長期運転」。アンサングヒーローとは、真の貢献者でありながら讃歌(さんか)の対象とならない影の英雄という意味だ。日本に向けられた言葉ではないが、時宜を得ている。

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